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血糖コントロールのための腸活

BY: 池田 由依

2024/08/22

近年、腸内細菌についてさまざまなことが分かるようになり、腸活や脳腸相関という言葉と共に腸内環境がいかに重要性であるかが広く知れ渡るようになりました。腸内環境は血糖スパイクとも深く関わっています。今日は腸内環境の重要性を再確認し、どのように腸内環境を整えることで血糖スパイクを改善し血糖コントロールをうまく行なうことができるのかについてお伝えします。

血糖スパイクが体に引き起こす症状

正常な人の血糖値はどんな食事をしたとしても、食後の血糖値はゆるやかな上昇と下降を示します。しかし、血糖スパイクが起こりやすい人の場合、食後の血糖値は血糖値が上昇したのちに、急激に下がる「血糖値の乱高下」を示すようになります。

食後に眠くなることは正常な人でも起こり得ますが、耐えられないほどの眠気・倦怠感・強い空腹感・生あくび・動悸や震え・頭痛などの体調不良が食後に起こることがあれば血糖スパイクが起こっているかもしれません。血糖スパイクになっているのかどうか正確に気になる場合は、24時間血糖値を測定できるFreeStyleリブレ2を用いることで食後血糖や夜間低血糖の有無を測定することができます。

血糖スパイクを防ぐためには、血糖スパイクが起こりにくい食事を摂ることや血糖スパイクを招く体質を改善することなどの方法がありますが、その1つの方法として「腸内環境を整えること」があります。

腸内環境の重要性

腸の役割

腸というと、大きく分けて小腸と大腸がありますが、小腸は食べ物が消化される場所で、主にビタミンやミネラル、アミノ酸などの栄養素を腸内管腔から血液中に吸収するために機能しています。大腸は小腸で吸収されなかった食べ物の残りから水分を吸収したり、大便を作り出す場所です。

腸内環境とは

私たちの腸の中には約1000種類、100兆個を超える腸内細菌が存在していますが、人は無菌状態の胎児が母親の産道から下りて来るときに母親由来の細菌に触れることで微生物との共生が始まります。大腸内に棲む微生物は小腸内に比べて約1万倍も多くの細菌がいて、大半は大腸を棲みかにしています。大腸だけでも数百種類を超える細菌が全部で100兆個以上住んでいます。

腸内環境の血糖スパイクへの影響

人の腸壁を覆う細胞はタイルのように綺麗に並んでおり、これらの細胞の間には漆喰の役割をする細胞間マトリクスと呼ばれるタンパク質があります。腸内細菌は人が食べる食事から栄養を得て生存する代わりに、漆喰の役割をするタンパク質をつくることで腸壁を堅固に保つここや、腸壁の外側(腸内管腔側)の粘液(ムチン)をつくることで腸内からくる有害な細菌やウイルスなどの侵入者から体を守る働きをしています。

腸内細菌のバランスが崩れ腸内環境が悪化すると、腸壁をくっつける漆喰が緩くなり、腸壁の外と内の境界を守っていた粘液が減少し、腸内の異物が体内へと侵入しやすくなる「腸漏れ」が発生しやすくなります。腸漏れが起こると、体内の慢性的な炎症を招き、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンの効果が発揮されにくくなる状態(インスリン抵抗性)を引き起こすと言われています。

インスリン抵抗性が上がることで、食後の血糖値が上がりやすくなります。血糖スパイクだけではなく、慢性的な血糖の上昇(糖尿病)のリスクにもなり、痩せているけれど糖尿病になる人の原因の1つとして考えられています。

血糖スパイクが起こっている人は血糖値の急上昇の後に急激な血糖値の低下が起こっています。血糖値が低下した時に体は血糖値を上げようとするため、甘いものが欲しくなりますが、腸漏れが起こっている腸の場合、この時に習慣的に摂取する食べ物が腸内細菌にとっての栄養となるものでなければ、低血糖症状の根本的な解決にはならず、血糖スパイクのリスクを続けて高めてしまうということになります。

手軽に手に入れることができる甘いものの代表である、砂糖や脂質や精製小麦のみ入ったお菓子では腸内細菌の栄養とはならず(人間の栄養にはなりますが)血糖スパイクや低血糖症状を根本的に解決する手段とはなりません。

血糖スパイクを起こしにくい食事を摂ることを意識するとともに、腸内環境を整えることが重要となってきます。

腸内細菌と便

自分の腸内環境はどのように確認したらよいでしょうか。今は病院で腸内フローラ検査を行うことができるので試してみるのも良いでしょう。簡易的な方法として、自分の大便を観察する方法があります。

大腸はほとんど無酸素状態なので、酸素があると生きていけない腸内細菌(偏性嫌気性菌)が住んでいます。偏性嫌気性菌にはビフィズス菌・バクテロイデス・ユーバクテリウム・クロストリジウムなどが含まれます。一方、小腸はやや酸素がある環境なので酸素の有無に関係なく生きていける腸内細菌(通性嫌気性菌)が住んでおり、乳酸菌・大腸菌・腸球菌などが含まれます。

人の便の半分以上が細菌とその死骸からなっており、便の状態を腸内細菌の良し悪しの参考とすることができます。

・良い便の状態

これらの便の状態のうち、一番良い状態は4番の便です。ソーセージやバナナの形状で、適度な水分量を含むことでなめらかで、排便時に痛みを伴わずにスルッと排泄されます。また臭いが臭くなく、色味は黄褐色〜茶色であるものが良い状態の便と言えます。

日々、食べたものや腸内環境、病気の有無などで便の状態は変わるので、日々の便の状態をチェックすることで自身の体調管理の参考にすることができます。

腸内環境を改善する

腸内環境を決める要因は、遺伝や乳幼児の時の生育環境や抗生物質を服用したかどうかなどで変わると言われていますが、全ての人が異なる腸内細菌叢をもっており、各自が各自に合う方法で自分の腸内環境を整えることが必要です。

腸内環境を良くするための食事法

腸内環境を整えるためには大きく二つの方法があります。

一つ目が、腸内細菌の栄養になる食べ物を摂取する方法でプレバイオティクスと言われています。以下がプレバイオティクスに該当します。

 

①難消化性オリゴ糖

②発酵性食物繊維

1.不溶性食物繊維

・全粒穀物(玄米、全粒粉パン、オートミールなど)

2.水溶性食物繊維

・全粒穀物(玄米、全粒粉パン、オートミールなど)

・野菜(ごぼう、ブロッコリー、さつまいも、らっきょう、こんにゃくなど)

・きのこ

・果物(ブルーベリー、アボカドなど)

・海藻(昆布、海苔、ひじきなど)

腸内細菌は多様性が重要とされているので、どれか1つに偏ることなく不溶性食物繊維と水様性食物繊維を合わせて以下を目安(1日あたりg)として摂取しましょう。だいたい、比較的食物繊維を多く含む食品であるアボカドに1個(約100g)あたり5.6g、玄米茶碗1杯(約130g)3.9gの食物繊維が含まれています。

・児童

1~3歳 19g

4~8歳 25g

・男性

9~13歳 31g

14~18歳 38g

19~30歳 38g

31~50歳 38g

51~70歳 30g

70歳以降 30g

・女性

9~13歳 26g

14~18歳 26g

19~30歳 25g

31~50歳 25g

51~70歳 21g

70歳以降 21g

妊娠期間 28g

授乳期間 29g

1つの食品で1日量を満たすことは難しいため、さまざまな食品をバランスよく食べることが良いです。食物繊維の摂取量を急激に増やすと、腹部膨満感が出ることがあるので、慣らすために徐々に増やしていくと良いでしょう。

③レジスタンドスターチ(難消化性でんぷん)

・冷えた白米、冷えたパン

・全粒穀物、パスタ

・コーンフレーク

ただし、レジスタントスターチを摂取するときは、血糖値を急上昇させやすい砂糖や精製小麦の含まれた食品も見られるので食品の選択に注意が必要です。


二つ目は、直接腸内にとって有用となる細菌を含む食品を摂取することで、プロバイオティクスと言われています。プロバイオティクスには以下のような食品が含まれます。

1.発酵食品

・ヨーグルト

・ケフィア

・キムチ

・納豆

・味噌

・ぬか漬け

注意点として、ヨーグルトは冷たい状態で摂りすぎると体の冷えにつながり、さらなる体調不良を生む可能性があるのでできれば常温近くで食べるとよいでしょう。

2.乳酸菌・酪酸菌製剤

ドラッグストアやオンラインショッピングでもビフィズス菌や乳酸菌や酪酸菌製剤として購入できるものが多数販売されています。最近は特に、大腸の腸壁の細胞のエネルギー源の大部分を占め、腸の粘液を産生する働きがあると言われる酪酸を産生する、酪酸菌が注目されています。酪酸菌を摂りたい場合は、食品だとぬか漬けや臭豆腐など限られた食品にしか含まれないので、酪酸菌製剤として摂取する方法が良さそうです。

腸内環境を整えるためには、これらの食品を1つに偏ることなく、バランスよく摂取することが必要ですが、腸内環境を整えるために発酵食品や食物繊維を摂ることで、逆に体調が悪くなる場合があります。その場合は、SIBO(小腸内細菌増殖症)やIBS(過敏性腸症候群)の可能性もあり、IBS(過敏性腸症候群)の食事療法として知られる低FODMAP食事法を試すのが良いと言われているので、医療機関で相談することも検討しましょう。

まとめ

食後の倦怠感や強い眠気や頭痛など、血糖スパイクの症状があるかもしれないと思う人は、血糖値を急激に上げない食事をするだけでなく、腸内環境を整えることも同時並行で進めていくことがおすすめです。以前のように体がすっきりしない原因は食事・運動・思考などに原因があります。健康的な食生活をするための知識を身に着けて、自分で自分の体調を管理できるようになることを目的として、血糖値の点検をしてみるのも1つの手段だと考えます。

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